札幌高等裁判所 昭和34年(ネ)245号 判決 1963年4月20日
控訴人 丸勝佐々木土木株式会社
被控訴人 函館ドツク株式会社
主文
本件控訴を却下する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求め、本案につき控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において本件第一審判決正本は昭和三四年六月五日控訴会社事務所において控訴会社の事務員畑野秀三に交付され送達の効力を生じた。然るに控訴会社が本件控訴を提起したのは同年八月一七日であつて控訴提起期間の二週間を経過しているから本件控訴は不適法であると述べ、控訴代理人において第一審判決正本は昭和三四年六月五日頃控訴会社と同一ビル内に事務所をおく訴外佐々木興業株式会社(代表者木村政勝)に送付され右訴外会社の職員である畑野秀三がこれを受領し、机の中に放置したまま忘却していたことが判明した。従つて控訴会社に対しては未だ適式の送達がなされていないのであるから第一審判決は確定せず従つて本件控訴は適法であると述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
当事者双方の証拠の提出、援用、認否は、被控訴代理人が甲第四、五、第六号証を提出し当審証人海老一利、野村松次郎の各証言並びに当裁判所が小石川郵便局長に対してなした調査嘱託の結果を援用し、乙第一号証は不知と述べ、控訴代理人が乙第一号証を提出し当審証人畑野秀三、村岡貞三の各証言並びに当審における控訴会社代表者本人の第一、二回各尋問の結果を援用し、甲第四ないし第六号証の各成立を認めると述べた外、原判決事実摘示の証拠関係部分と同一であるからこれを引用する。
理由
先づ本件控訴の適否について按ずるに、原裁判所民事書記官は第一審判決正本を第一審被告(控訴会社)東京都文京区富坂二丁目一一番地丸勝佐々木土木株式会社代表取締役佐々木勝造宛に郵便による送達に付したところ、小石川郵便局集配員野村松次郎により昭和三四年六月五日右控訴会社肩書事務所において事務員畑野秀三に交付して右判決正本の送達を控訴会社に対してなされたことが記録添付の郵便送達報告書の記載により明らかなところである。そこで控訴人は右畑野秀三は訴外佐々木興業株式会社の事務員であつて控訴会社の事務員でないから同人に対し第一審判決正本が交付されるもこれによつては送達の効力を生じえないと主張するので按ずるに、成立に争いない甲第四ないし第六号証、当裁判所が小石川郵便局長に対してなした調査嘱託の結果、当審証人野村松次郎、同海老一利の各証言と、当審証人畑野秀三の証言の一部、当審における控訴会社代表者本人の第一回供述の一部とを綜合すると、控訴会社は土木、建築工事等を営業目的としてその本店営業所を東京都文京区富坂二丁目一一番地に所在する代表取締役佐々木勝造の所有する通称富坂ビル三階においていたのであるが、右控訴会社代表者佐々木勝造は昭和三四年当時概ね札幌市に常時滞在して訴外佐々木土木株式会社(本店所在地札幌市南一三条西一丁目一番地)の代表取締役の資格においても北海道における土木、建築請負営業事務に携わつており、控訴会社本店営業所には事務員極めて手薄のために右富坂ビル三階に事務所を隣り合わせに設け出入口は違つていても事務所の内部は両者突き通しになつている場所で営業事務を執つている訴外佐々木興業株式会社の職員に対し控訴会社名宛の郵便物受領方を継続的且包括的に委任していたこと、右訴外会社は控訴会社と同様土木、建築請負業を営業目的とし両会社の役員間に親族関係が存し外部的には同族会社と同視さるべき関係にあること並びに右訴外会社の取締役畑野秀三が前記委託関係に基いて昭和三四年六月五日控訴会社宛本件第一審判決正本を封入された封書を小石川郵便局集配員野村松次郎から交付を受け控訴会社事務員として郵便送達報告書に署名押印し、右判決正本入封書を受領してこれを控訴会社の職員坂東某に手交し同人が控訴会社代表取締役佐々木勝造の秘書役藤山知恵子の事務机の抽出しに入れたことが認定できる。右認定に抵触する当審証人畑野秀三の証言部分並びに当審における控訴会社代表者の第一、二回供述部分は乙第一号証の記載部分と共に措信し難く他にこれを覆えすに足りる証拠はない。しかして、控訴会社代表取締役佐々木勝造が札幌地方裁判所室蘭支部において係属した第一審訴訟において訴訟行為を自から追行するに当り控訴会社が同裁判所の所在地に営業所又は事務所を有しないのに送達受取人を定めて同裁判所に届出なかつたことは記録上明らかであるから、前記認定の事実関係の下においては控訴会社と畑野秀三との間に雇傭関係が存在しなくとも民事訴訟法第一七一条にいわゆる送達を受くべきものの事務員と同様の受領資格を有するものと解するのが相当であるから同人に交付してなされた第一審判決正本の補充送達は訴訟法上有効で、右交付の日である昭和三四年六月五日から控訴提起期間進行するものといわねばならない。従つて本件控訴状が当裁判所に提出されたのが昭和三六年八月一七日であつて、控訴提起期間の二週間を経過していることが記録に照し明白であるから本件控訴は不適法でありその欠缺は補正することができないといわねばならない。
よつて本案につき審究するまでもなく本件控訴はこれを却下すべく、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用した上主文のとおり判決する。
(裁判官 南新一 輪湖公寛 藤野博雄)